ヒアリング

昨日と同じく黒縁メガネをかけた、
どこか重役秘書っぽい看護師から、
診察を受ける前に、
これまでの経過や救急でどのような処置をされたのか、
また現在の痛みなどを質問され、
低調な声だが手短に答えていった。


数ある質問の中で、
「どうしてこのまま家で過ごされたのですか?」
のようなことを聞かれたとき、
少し頭に血が上ってしまった。
「救急で連れていかれた病院で帰っていいと言われました。
一度こちらにも連絡しましたが電話で断られました。」と、
ありのまま事実を述べると、
黒縁の方は「え?」としばらく言葉に詰まり、
「満床だったのでしょうね」と付け加えた。
聞き耳を立てている前の座席のお年寄りの背中を、
おれはちらちら眺めていた。


ヒアリングは10分もかからなかった。


待合のシートの前方に番号を表示するモニターがあって、
自分の番号が示されると、
診察室のある小スペースへ進んで待つ流れになっている。
横になってだらーっとしたい気持ちを胸に、
モニターに出てくるであろう自分の番号を待ち続けた。
とても、とてもいやな時間だった。
出かけるときの、
さっさと診察してもらって帰ろうという明るい思いに反して、
確実に良くないことが起きる予感が心に満ちていた。
だから自分のナンバーが出てこないようにと、
何のためにここに来たのか分からない気持ちが混じってきた。