il imbianchino chiacchierone

涼しげ

 朝、まだ気温が上がらないうちにと体を動かし帰ってくると、
もうすでに汗のしたたる暑さをもと、
塗装店の方がうちの外壁などを補修していた。
 今日はたしか来てもらう日だった。
 仕事とはいえこんな夏の日に、
屋外での作業はご苦労だと思いながら一声挨拶した。
 白髪の混じる短く刈った頭から50半ばとみられるその職人さんは、
錆びたり剥がれたりした階段の表面のメンテナンスが
いかに大切かということを話をしてくれた。
軽く交わす程度の社交的な短い会話だろうと、
ただ早く冷たい水でも飲みたいと、
自分でもぴりっとしない返事をしていた。
 ところがこのおやっさんはマシンガントークの持ち主だった。
話を切る糸口なしにモルタルがどうのとか、フッ素だったらどうのとか、
何ら塗装の予備知識のない私に、専門的かつ熱血に説明しつづける。
朝から何たるテンションか、刷毛を片手にうむを言わせぬ、
動かし続ける口からは説明というよりも、
職人としての語りが出てくるといったほうが正しいかもしれない。
 見た目が人の良さそうな日に焼けた恵比須顔のおやじなせいか、
その好意を遮るのもわるい気がして自宅に入れない。じりじり暑い。
塗装についても興味がないこともないのだが・・・。
 「どうぞどうぞ、大丈夫ですから入ってください」といったすぐあとに、
また説明をし始めるタフでしゃべくり漫才のような職人さんからようやく家へ逃れ、
まだ薄暗い流しの前で、からからののどに水を一気に流し込んだときは、
なんともいえない水の味がした。