la bella poliziotta

そらをみる

考えられないことをやった。
詳細を省いていうと、外でメガネをなくした。
どこかに落っことしてしまったらしい。
当日フラフラだったということもあり、
数日後に一応紛失届けを出そうと、
善良な発見者によって手元に返ってくるというような、
淡い期待を胸に家近くの交番へ入った。
扉を開けるとそこには甘いコーヒーの香りが鼻にきた。
そして中では、どかっと椅子に腰掛けた8割方白髪で短髪の、
あと5年もすれば定年を迎えよう体格のよい警官と、
その横で姿勢良く直立した、孫と受け取れるような婦警が、
湯気のたつミルクコーヒーの入った紙コップを片手に
世間話のひとつでも興じていたのだろう、
リラックス感ありありの、
トロールを終えて小休止といった雰囲気が立ち込めていた。
2人とも笑顔でこちらを向いた。
いい感じをぶち壊したなと思った。
特にオッサン巡査の顔には、
「今来んなよ」と太字で書いてあるのを見逃さなかった。
そんなことより驚いたのは、
MyFavorite=検挙or取り締まり、
みたいな顔や態度の婦警ばかりだと思っていたけれど、
現実にこんなキュートな婦警さんがいるのかということだった。
肩より少し上くらいのまっすぐな黒い髪に上目遣い。
左手にのせた紙コップに右手を添えているのが様になりすぎている。
何というか、掃き溜めに鶴よりすごい鳥という状況である。
オッサンと業務用デスク等のセットをオダギリさんとかに置き換えたら、
ほとんど『時効警察』じゃないか!
この場を写真にとってポスターにするだけで、
警察官志望率は確実に上昇するにちがいない光景が目の前で展開されている。
あまりの衝撃に届出しにきたことが頭を離れ、
ちょっと呆けてしまっていて、オッサン巡査主導の会話に
紛失状況などを適当に説明している自分がいた。
少しぐらいオッサンじゃなくて婦警さんが手続きしてくれと、
もちろん期待しながらであったが実現はしなかった。
交番を後にするとき、
何をしにここに来たのかよく分からないような気がした。


考えられない失くし物をして、
考えられない派出所に行った。
気に入っていたメガネ、戻ってきてほしい。
空がきれいだ。