『けものたちは故郷をめざす』

体験に基づく現実描写、最後の船での出来事も本当にあったことのような気さえする。
それが手ごたえのような恐怖を植えつけられた。
個人とはこうもか弱い存在だったのか。
気がつくと一気に読み終えていた。主人公にとって、
あまりいい環境ではなさそうな感じだった読み始めの場面が、
結果として恵まれた最善の場所だったことに気がつく。
読了後に多くのことに気付かされた。


安部公房の作品を読むのに最もいい季節は、と尋ねられれば、
恐らく初夏と答えると思う。
それも日が昇る少し前の暗がりと静寂の中で、
一足早めの熱帯低気圧が過ぎ去っていく頃だと思う。
直感であって理由を説明できないけれども。
またそのときに読んでみたい。
特にこの小説は時間をおいて再び手に取りたい。