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ラーゲルクヴィスト「バラバ」

数々の悪行を働いてきた主人公は、 あまり感情を持たないうさんくさい男でしかないのだが・・・。 最後は「何やってんねん!」と、 いつの間にか応援する立場に変わっていた。 応援というよりも、 一読者のやるせなさの表れと言えるかもしれない。 信仰とは…

ガリア戦記を読む

「ガリア戦記」にはしてやられた。 報告書とか元老院へアピールするための書簡とか言われているそうだが、 ローマ軍の戦略の根拠を織り交ぜながら、淡々と事実を書き綴った文体からは、 優秀な指揮官としての冷静さをうかがい知ることができ、 進んだ土木技…

『ディナモ―ナチスに消されたフットボーラー』

アンディ・ドゥーガン著、千葉茂樹訳。 第二次世界大戦時、 ナチスに仕組まれた「絶対に勝ってはならない」試合に、 祖国ウクライナのために、フットボーラーとしての誇りを胸に、 ドイツ空軍サッカーチームに全力で勝ちにいった、 ディナモ・キエフの選手た…

クライスト「ミヒャエル・コールハースの運命」

副題・或る古記録より。吉田次郎訳。 セッションで言うと、ベースがドライブして、 うねるラインでぐいぐい引っ張っていくような、 よくある中だるみが一切なかった。 プロレスで言うと、3対10の不規則なバトルロイヤルで、 最期はレフェリーが倒され収拾…

「世界ノンフィクション・ヴェリタ24 第9巻」筑摩書房

『森の猟人ピグミー』『極北の放浪者』『カラハリの失われた世界』収録。 どの作品も何てパワフルなんだ。パワフル過ぎて説明とか感想など、 あまり意味のないように思えてくる。このシリーズは強力無比だと言える。 零下50℃の下でエスキモー(現イヌイット…

本の読み方が変わった

人の数だけそのスタイルがあって、 読書や映画鑑賞等にエネルギーをそれなりに消費するタイプとしては、 読書量の増加はすなわち気持ちの充実や好調を意味する。

アルセーニエフ「シベリアの密林を行く」

第1回目・2回目ウスリー地方探検の記録。 著者が観測隊の単なる指揮官だったのではなく、 温かさを持った鋭い観察眼と筆力が備わっていたことにより、 じっくり語り聞かせてくれたような気持ちだった。 この作品に接したことのある人には いま自分が自然と…

『名短篇 新潮創刊一〇〇周年記念 通巻一二〇〇号記念』

読書の秋たけなわ。根気がなく途中でだれるので、長編よりも短篇が好みのようだ。 優れた短篇の持つ切れ味と、日本文学の流れも一緒に楽しませていただいた。 中でも、鴎外『身上話』おっさん視点全開、芥川『蜜柑』の色彩感ある展開が印象的であり、 島木健…

J.N.ウィルフォード『地図を作った人びと』鈴木主税訳

人類の地図製作における厖大な知的好奇心に飲み込まれた。 地図製作の進化=人間の歴史をたどっていると、 まるで未知の土地へ冒険に出かけた気分を味わう。 古代バビロニアに始まりグレートウォールの向こう側へ、 心がふつふつ沸騰し続ける一冊だった。 『…

カート・ヴォネガット『タイタンの妖女』

ゴリゴリした展開でグイグイと読了。 ほとんどSFは読まないので上手く説明できないけれども、 設定がぶっ飛びすぎてるのにもかかわらず、 現実的に迫ってくる確かな感覚。 よろしく、と日常よく使う言葉がちょっと怖く切なくなったりした。

「アンゴウ」

求めること自体に無理があるかもしれないけれど、 最近のミステリーは読み終えたあとの感触が、 どろどろしたりしゅんと尻すぼみしたりと、すっきりしないことが多い。 そういったなかで、この短編の何ときらきらっとしたことか。 日本探偵小説全集の10を読…

カミュ『ペスト』

手元に全集があったので読んでみた。ゆっくりかつ確実に、 その世界に没入していった。 バタバタと人が倒れていくことが当然の感覚になるなか、 それでもその街で生活せざるを得ない人々の中から医師を始めとし、 強力な伝染病に向き合って行動する。 非常事…

『へうげもの(1)』

『信長』『黒田・三十六計』など戦国物の王道も言うまでもなく素晴らしい一方で、 同じ時代設定でのこういう別な着眼にハッとした。 このあいだ茶入の展覧会に行き、 名物を目にして感に入ったばかりでもあり、 自分にとってたいへんタイムリーな漫画だと思…

『愛と闘魂の安全三角地帯』

『風景進化論』より。 椎名誠さんの本が好きだ。飾り気がなく勢いがあって読んで元気が出る。 私も含めラッシュ時に電車に乗らない人にとって、 たまに乗る満員電車の車内は一種の現代ドラマにみえてしまう。 そのなかのドラマのひとつに焦点をあてた作品で…

『樅の木は残った』

時代小説によく出てくる、いわゆるおいしいとこ取りの主人公は置いといて、 早く先を読みたくなるようにさせられる大きな理由のひとつは、、 黒幕とその家臣らのやり取りが会話形式で書かれた断章というものが、 節々に挿入されてあるからだと思う。 内部事…

『スローカーブを、もう一球』

山際淳司さんの書くものは静かに熱く、 ぐいぐい読ませられる。淡白な語り口が返って真に迫っている気がする。 年齢やアマプロ関係なく、剛速球を放る、 いわゆる本格派と呼ばれるピッチャーよりも、 軟投派のほうに魅力を感じている。 飛躍するが、だから野…

『きょうの猫村さん』ほしよりこ著

ぼーっと、そして心行くまで和みたいときに読む。 畳の上でゴロンとなって読みふけりたい。 絵のタッチや、いかにもな会話がクセになる。 ささっと描けそうで、実際はかなり難しいと思われる動物表現。 このさらりとした空気の持ち主である著者を、 本当に偉…

『けものたちは故郷をめざす』

体験に基づく現実描写、最後の船での出来事も本当にあったことのような気さえする。 それが手ごたえのような恐怖を植えつけられた。 個人とはこうもか弱い存在だったのか。 気がつくと一気に読み終えていた。主人公にとって、 あまりいい環境ではなさそうな…

「マーノ・デ・サントの帰郷」

注文していた本を受け取りに行く道は心が踊ってしかたがない。 その時代に、こんなに熱くて楽天的な日本人が生きておられたことに、 読んでるこちらまで、心がふつふつ沸騰してくる。 ジョン万次郎やジョセフ彦とはまた違った熱さ。 密出国からボカ・ジュニ…

『踏まれた麦は強くなる』

生で稽古や生活をみたことがなくても、 極めて厳しい世界であるのがわかる。 そんな相撲界において、頑強に戦ってきた力士の語る、 飾り気のない実直な文章は一読に値する。 たしかテレビでみたことのある霧島関は、 鮮やかな明るいブルーのまわしを締めて …

『下駄の向くまま〜新東京百景』

とにかく飲酒の連続で、 こういう人のことを酒仙というのだろう。 絵も文章もたっぷりと味があり、 温かい眼差しの持ち主だとうかがわせる。 特に、下町を描かせたら本当に上手だ。 筆者である滝田ゆう氏のような感じの文体で 一度はこの日記を書いてみたい…

野生と仲良く

個人的には、人はあちらこちらに住みすぎていると思う。 森や山を切り拓いては宅地をみだりに開発するので、 元の居住者である野生の生き物たちが割を食っている。 勝手に土地を不動産として人間だけが所有する仕組みが当たり前の昨今、 ガラパゴス諸島への…

『大いなる眠り』

P.マーロウのシリーズ第1作をまだ読んでいなかった。 たまに鮮やかな色彩の服を着てみたいことがある。 似合っていないのに奇抜なデザインで 派手な配色のを着ている人を見かけるが、 この本のなかでそういうことはないらしい。 いかにもアメリカという感じ…

『星界小品集』パウル・シェーアバルト

こういうシュールなSFとでもいうのか、 非現実的世界のなかに散らばっている可愛さや滑稽さを 持ち合わせている作品も、また読んでみたいと素直に思う。 時代が変わり書物に対する価値観が変わっても、 当時これを読んだ人と同じ気持ちをもったと確信でき、 …

図書館格差への憤り

近畿での話になるが滋賀県は偉い。資料によると、 住民一人当たりの蔵書数は約4.82冊で全国1位。 昔は全国で最も図書館の少ない県だったらしいが、 自治体の奮闘努力がひしひしと伝わってくる。 阪神間もファイトしてる。中でも芦屋市の住民一人当たりの 蔵…

よろずや平四郎活人剣

藤沢周平さんの書くものはリズムが良いせいか読みやすく、 スムーズに作家の世界へと運んでくれる。この作品は、 強引かもしれないが「ズッコケ三人組」と相通じる気がしてならない。 そんなに時代小説を読むことはない。でも、ちょっとどこかに 旅行へ行き…

ブックカバー

ブックカバーが好きで、気に入ったものを 何度も利用している。 必要以上にもらわないようにと心がけてもいる。 特にお気に入りは、 薄茶地に手書きのタッチで幾何学的デザインが 濃い茶色で描かれた古書店のカバーだ。 控えめで、余計な主張がないのがいい…

『猫にかまけて』

猫の性格や日常が事細かに書かれ、 納得すること多々あった。 家族への愛情と観察の量は比例するようだ。 ちなみに私は犬派でも猫派でもなく、 何でも好きだ、たとえイグアナでも。 犬よりも、猫のキャラを把握するのには ちょっと複雑な推理が必要のような…