『樅の木は残った』

時代小説によく出てくる、いわゆるおいしいとこ取りの主人公は置いといて、
早く先を読みたくなるようにさせられる大きな理由のひとつは、、
黒幕とその家臣らのやり取りが会話形式で書かれた断章というものが、
節々に挿入されてあるからだと思う。
内部事情に詳しいAさんが鼻から上の顔を隠して業界の裏事情を語るような緊張感があり、
万一のために固有名詞をなるべく避けて、あれやそれ等の代名詞での悪党らの会話の内密さもある。
またその会話から今までの物語の流れをおさらいでき、
万全の状態で、しかも新鮮な気持ちで新章へ読み進むことができた。
そして話が進み、回を重ねるにつれて会話の主が誰なのか分かってくるのがいい。
この断章の存在だけで、山本周五郎は一味違うな、と唸った。


物語の最後もそうだけれども、江戸時代の悪の所業や常識に興味を覚えた。