発見そして通報


今日、落車現場に行ってきた。
どこからみても、派手に転ぶような急な勾配には見えない。
それに例の鉄板がないじゃないか!?見間違いだろうか?



 痛みよりも先に、ヘルメットの内側で、
地震の横揺れのように何度も脳が震えたのを覚えている。
そのあとで、
右の腕、腰、膝、肩の全てに痛い感覚を超えた何かがあって、
その感覚に全力で対抗することで精一杯だった。
立ち上がろうにも、立ち上がれず、
しばらくは道路に赤いものが流れ出るのを見ていた。


やがて冷静さを取り戻し始めた私は、
救急車を呼ぼうと背中のバッグに手を伸ばそうとしたが、
痛みのためにこの半身の姿勢を変えることができず、
背中に密着したバッグから
携帯を取り出すことは不可能だった。
体をじっと横たえ、誰も通らないまま、
歯を食いしばり続けて5分が経過した。


「大丈夫ですか!?」
坂の下の方から、男性の驚いた声が聞こえた。
眼を向けると、
30代ほどのご夫婦が小走りで向かってくるのが見えた。
これはひどい、救急車呼びましょうか?」「はい…お願いします」
「動けますか?」「はい…やっぱ痛くて無理です…」
その奥さんと思われる方が叫ぶ。
「出血を何とかしないと!」


どこからそんなに血が出ているのか?
一方、男性は電話越しに、
救急に現在地を説明してくれていた。
周りに民家がなく、目印らしいものもないので、
なかなか相手に伝わらなかったのを記憶している。


 そうこうしているうちに、あと数人集まってきた。
その中の一人である中年の男性が、
私のポケットからタオルを出して
止血を試みている奥さんに、縛る位置など指示を出した。
「その辺りで、もう少し強く」
右の二の腕をぎゅっと縛られた。
「お詳しいですね、お医者さんですか?」奥さんは尋ねる。
「まあ、そうです」
この時、ごくわずかだけれども安堵を感じた。
救急処置を受けている私が今できることはと言えば、
親身になって応対してくれている方々に感謝しながら、
救急車を待つことだけだった。


 そういえば愛車は、自転車はどこだ!