デスパレートな私


ヘルメットのヒビの一部。
右の内側と側頭部にもある。
ちなみに自転車のヘルメットは、
衝撃吸収時にヒビが入るような設計になっており、
一度役割を果たすと使えなくなる。



到着した救急隊員がケガの程度を確かめたり、
私に気分や痛みを尋ねたりしていた。
特に、地面と激突した頭部について、
入念な聞き取りが行われた。
こめかみにちょっと違和感があっただけで、
頭が痛いとかは全くなかった。
取り外されたヘルメットにひびを見つけたときは、
頭を打つことへの恐怖と、
ヘルメットへの感謝がふっと沸き起こった。


搬送先の確認など問い合わせの電話をしている最中、
思い出せることは、助けて頂いた方々に対して、
「ありがとうございます」を連呼していたことだった。


隊員が「肘を曲げられますか?」と聞いてきたので、
理由は分からないが、
おそらくそんなことをしなくてもよかっただろう、
思いっきり曲げてみせた。
この時は曲がった。聞かれたから曲げたんだ!


さらに、10年前の右肘骨折時には、
激痛が走って曲げるのが不可能だったことを思い出し、
「折れてないんじゃないっすか」などと、
軽率な自己診断すら披露した。
いま振り返ると、
ただのバカじゃないかと思わざるを得ない。
腕からボトボトと血が滴り落ちているにもかかわらず、
縫えばいいだけの話だと楽観していた。


この時に、救助していただいたご夫婦と
自転車を頼んだご老人に、
後でお礼するため連絡先を聞いておくべきだった。
冷静さを欠いて心のどこかで、
またこの辺りで会えるという、
根拠のない甘えがあったように思う。


「今日は休日なので、整形外科がなく外科に行きます」
電話を終えた隊員がそう述べた。
とにかく病院で医者にみてもらうことしか頭にない私は、
うなずき続けていたが、
結果的には、これがよくなかった・・・


バッグとヘルメットを外してもらいながら、
「補助ありで立てますか?」中年の隊員が言う。
若い隊員に右腕を持ってもらい、
高さをキープされながら立ち上がろうとしたけれど、
股関節がおかしい!右腰もやけに痛い!
すっと立てずに片足スクワットの様に起立した。
とにかく、どこがどうなっているかわからないまま、
隊員に支えられながら右足を引きずって、
すぐそばの救急車に近づくことだけを考え、
ずっと車体のドアを見つめ続けて前進した。