搬送

水で道路の血だまりを洗い流す間も、
曲がりくねった狭路を走り下りる間も、
揺れる車内で、
左腕で手すりを握って体を安定させ、
相変わらず若手の隊員に
右腕を持ち上げられたまま座り続けた。
痛みはあまり感じなくなっていたが、
体のだるさや疲れを感じていた。
細胞や神経を傷める恐れがあるということで、
「医者」の指示で止血のために縛ったタオルも取られた。
どちらが正しい処置なのだろう?


ここは自宅のあるK市の隣A市で、
流れとしてA市の当直の病院に行くのだろう。
ふと、A市に住む、
部活で同じ釜の飯を食った同級生の救急隊員が
どうしているのか聞きたくなった。
彼とは以前、
自宅で異常に気分が悪くなり、
急患で行ったとある病院で、
眼を開けると白衣を着た彼がいて、
奇跡的再会を果たしたのだ。
「○○ちゃうん、何してんの?こんなとこで?」
「救急の研修やねんけど、そっちこそどないしたん?」
そんな会話を交わしたことを思い出していた。
聞くと、ここの所属ではないらしく、
彼はA市に住んでいるけれど、勤務はK市のようだった。


やがて搬送先の病院に着いて下りるとそこは駅の近くで、
サッカーボールで遊ぶ少年と目があった。
まじまじと注目されるのが恥ずかしい。


「我々はここまでです」と救急隊が去り、
案内された人気のない診察室で医師が来るのを待った。
ひとりぽつんと、いやな空気の待ち時間だ。