救急診療・洗浄


現れたのは同じ年くらいの痩せた色黒の医師と、
ベテランそうな黒縁メガネの看護師だった。
早速傷口を見せると、ケガの経緯の問答の後、
医師は「ほう…これは…」とつぶやき、
まずは患部の洗浄に取り掛かることとなった。
理髪店で髪を洗うシンクみたいな所で、
肘をシャワーしてもらった。
多少しみて痛い。
水と血と砂ぼこりが流れ、排水口に吸い込まれていくのを、
黙って見ていた。
右肘がどういう状態かは、
目の届かない位置なので、未だ分からないままである。


つづいて患部のレントゲン撮影をした。
写真からは、素人目でみて
右肘の関節の原形はとどめているようなのだが、
滑車切痕あたりが滑らかな円形ではなく、
ところどころ切断されていた。
そして何よりも、肘頭が分離して、
ちょっとおかしな位置にぽつんと上ずっていた。
何だかとてもがっかりした気分だった。
また、骨は折れていないと自分に言い聞かせていたのだろう、
諦めに似た解放感に力が抜けた。


そのあと、ベッドの上に移動し、
肘の洗浄が再開されたのだが、
傷の内部も洗っているせいか、
そこから言い知れぬ痛みを感じ、
思わず「痛い!」と漏らした。


骨折の痛みというより、
傷口の深い場所からくる痛みのように感じた。
人の意識が飛ばない程度の骨折は、
折ってしばらくの間だけ痛いだけで、
(以前、単純骨折したとき「何かおかしい」
と感じながら帰ってぐうぐう寝ていた)
痛みに強いはずの自分が痛いと言うのだから、
そこそこ痛い。
下手な筋肉注射の3倍といったところか。


「痛いですか?」と気遣う言葉と裏腹に、
洗浄は淡々と続けられた。