救急診療・シャワー

一通り洗浄が終わり、止血を施された私は、
家族への連絡を提案され電話をかけた。
事後報告と、シャツが破れているので、
着替えを持って来てほしい意味もあった。


自転車から落ちて骨が折れたという話は、
家族をひどく動揺させ、落胆させた。
すぐこちらへ向かうと言う。


電話を切ってから、
全身にくっついている砂や土を洗い流そうということで、
こちらの病院の浴場に案内された。
小さな旅館の風呂場ほどの広さで、
一人で入るには十分だったが、
「試合後のシャワーですっきり」とは正反対の、
この先の漠然とした不安の中のシャワーは重苦しかった。
それでも多少さっぱりしたと思う。
メガネをかけていないので、
鏡に映る傷口がよく見えない。


風呂場を出た場所に用意されていた衣服は、
入院患者が着てそうな、
薄いブルーのガウンみたいな服だった。
まだ着替えのないがないのでガウンだけを着て、
お風呂から上がったらこれを押して呼んでください、
と言われていたのでボタンを押し、
看護師の来るのを待ってエレベーターに移動した。
あたりを見ると、浴場からエレベーターまで、
足跡のように血が点々と落ちていた。
人の気配がなく、
青白いライトに照らされた赤いシミが散らばるその光景は、
バイオハザードのゾンビが出そうなエリアを想像させた。