救急診療・再び止血

処置の甲斐もなく、
血は止まってはくれなかったが、
だからと言って、不安があるわけでもなかった。
というのも、いま自分は独りではなく、
病院にいて医者に診てもらっていることが、
説明不要の安心感を与えていた。
こういう状況下では、誰だって似たようなものだろう。


再び診察室のベッドに座ったとき、
やや眠そうな目をした医師に、
X線写真を指さしながら今後について質問した。
10年前のように、
シーネで固定するものばかり
思っていた私に帰ってきた答えは、
「恐らく手術かなー、ギプスでいけるかも…」
と曖昧なものだった。
手術という単語にどきっとしたけれども、
内心ギプスによる固定で大丈夫と、
何の根拠もなく楽観していた。


見解を言い終えた医師は看護師と、
もう一度止血に取り掛かった。


何カ所か縫合された感触があったものの、
縫合とか肘の痛みに慣れてきたようで、
治療されている間、
手当の様子をぼんやり眺めながら、
今晩のドラマが気になり始めていた。
そんなことを考える余裕があることは、
大した骨折ではない証拠に思えた。


「先生、○沢までに帰れますか?」
「○沢って今日?大丈夫、帰れますよ」
ゆっくりとした口調で答えた医師は、
仕事の手を止めることなく、
その話題を皮切りに、
3人による世間話が静かな診察室にしばらく響いた。
それは、私にますます安堵をもたらした。
大きな船に乗っているんだ。